「残業が月60時間になったら、その月の残業すべてを50%割増へ変更する」「法定休日の勤務も合計して60時間を判定する」と処理していないでしょうか。
月60時間超の割増賃金は、1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分に50%以上の率を適用する制度です。60時間ちょうどまでは50%の対象ではなく、法定休日労働は60時間の集計から除きます。一方、法定外休日に働いた時間が法定時間外労働となる場合は集計に含めます。
同じ「残業時間」でも、36協定の上限管理、割増賃金、健康管理では集計対象が異なることがあります。勤怠システムで一つの残業項目だけを見ていると、50%へ切り替える位置を誤りやすくなります。
この記事では、勤怠管理に携わる経営者・人事担当者の方に向けて、月60時間超の割増率、集計へ含める時間、具体的な計算例、代替休暇、勤怠・給与システムで確認したい設定を解説します。
この記事の結論 1か月の法定時間外労働は、起算日から従業員ごとに累計します。60時間以下の部分は原則25%以上、60時間を超えた部分は50%以上です。法定休日労働は60時間へ含めず、深夜労働は同じ時間帯に25%以上を加算します。月60時間へ近づいてから給与締めで気づくのではなく、36協定の上限とあわせて途中経過を管理することが重要です。
月60時間を超えた部分は割増率50%以上
労働基準法第37条は、1か月について60時間を超える時間外労働に、通常の賃金の50%以上の割増賃金を求めています。2023年4月1日から中小企業への猶予措置も終了し、現在は企業規模を問わず適用されます。
ここでいう時間外労働は、会社の所定労働時間を超えた時間すべてではなく、原則として1日8時間・週40時間などの法定労働時間を超えた時間です。所定労働時間が1日7時間の会社で1時間延長して8時間働いても、その1時間は会社内では残業と呼ばれていても、通常は月60時間を判定する法定時間外労働に入りません。
法定労働時間と残業の基本で、所定外労働と法定時間外労働の違いも確認してください。
60時間ちょうどは50%の対象ではない
50%以上になるのは「60時間以上」ではなく、60時間を超えた部分です。
- 月の法定時間外労働が60時間ちょうど:60時間すべてが原則25%以上
- 月の法定時間外労働が61時間:60時間までが原則25%以上、超えた1時間が50%以上
- 月の法定時間外労働が70時間:60時間までが原則25%以上、超えた10時間が50%以上
会社が月45時間超の割増率を30%とするなど、法定より高い率を定めている場合は、その就業規則・賃金規程に従います。
境界値を分けて確認
60時間ちょうど50%へ切り替わるのは、累計が60時間を超えた時点からです。
「50%」は通常の賃金に上乗せする割増率
1時間当たりの基礎賃金が2,000円なら、月60時間を超えた法定時間外労働1時間について、少なくとも3,000円(2,000円×1.50)を支払います。
給与システムでは「50%分だけを追加する項目」と「通常賃金を含め1.50倍で計算する項目」のどちらで設定しているかを確認します。1.25倍の残業代を支給したうえで引上げ分25%だけを別項目で加算する設計もあります。表示方法が違っても、最終的な支給額が法定額を下回らないことが必要です。
月60時間の集計に含める時間・含めない時間
最も間違えやすいのが、休日労働と深夜労働の扱いです。
月60時間へ算入する時間の早見表
勤務区分の名称ではなく、法律上の法定時間外労働に当たるかで判断します。
| 時間の区分 | 60時間へ算入 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 平日などの法定時間外労働 | 含める | 1日8時間・週40時間超などを累計する |
| 法定外休日の勤務 | 法定時間外労働となる部分を含める | 法定休日以外の会社休日でも、週40時間超などを判定する |
| 法定休日労働 | 含めない | 35%以上の休日割増として別に集計する |
| 深夜の時間外労働 | 時間外労働として含める | 同じ時間へ深夜割増25%以上も加算する |
| 所定労働時間超・法定労働時間内 | 含めない | 会社独自の残業手当とは分ける |
| 年休・欠勤など実際に働いていない時間 | 含めない | 実労働時間を基礎に法定時間外労働を判定する |
法定休日労働は含めない
法定休日に働いた時間は、月60時間を判定する時間外労働には含めません。法定休日労働として35%以上の割増率を適用します。
たとえば、ある月に法定時間外労働が58時間、法定休日労働が8時間あった場合、単純合計は66時間ですが、月60時間超の50%割増は発生しません。法定時間外労働は58時間だからです。
法定休日がどの日か曖昧だと、この振り分けを正しく行えません。法定休日と所定休日の違いもあわせて確認してください。
法定外休日の時間外労働は含める
土日休みで日曜日を法定休日とする会社では、土曜日は法定外休日です。月曜日から金曜日までに週40時間働いた後の土曜日勤務は、週40時間を超える法定時間外労働となり、その時間を月60時間へ含めます。
「休日出勤」という一つの項目へまとめず、法定休日労働と法定外休日の時間外労働を分けて集計します。
深夜労働と重なる部分は75%以上
月60時間を超えた法定時間外労働が午後10時から午前5時までの深夜帯に行われた場合、50%以上の時間外割増に25%以上の深夜割増を加え、合計75%以上の割増率になります。
深夜時間を60時間へ別に足すわけではありません。同じ1時間を「月60時間超の時間外労働」と「深夜労働」の両方へ区分し、それぞれの割増率を反映します。
【計算例】法定時間外労働70時間・うち深夜4時間の場合
1時間当たりの基礎賃金が2,000円、1か月の法定時間外労働が70時間、そのうち月60時間を超えた後の4時間が深夜労働だったケースを考えます。会社独自の割増率はなく、代替休暇も取得しないものとします。
60時間までの時間外労働
2,000円 × 1.25 × 60時間 = 150,000円
60時間を超えた10時間
2,000円 × 1.50 × 10時間 = 30,000円
そのうち深夜だった4時間の加算
2,000円 × 0.25 × 4時間 = 2,000円
この例の時間外・深夜労働に対する支給額は、合計182,000円です。
別に法定休日労働があれば、70時間へ足して50%の時間を増やすのではなく、法定休日労働として35%以上で別計算します。また、月給制では、割増賃金の算定基礎に含める賃金を1時間当たりへ換算してから計算します。
計算時の注意 50%の対象は月70時間すべてではなく、60時間を超えた10時間です。深夜4時間は新たに4時間を加えるのではなく、その4時間へ25%を追加します。
月の起算日と「超えた時点」をそろえる
1か月の時間外労働は、就業規則で定めた起算日から累計します。厚生労働省の規定例では、賃金計算期間と同じ毎月1日を起算日とする例が示されています。
給与が月末締めなら毎月1日、20日締めなら前月21日など、自社の賃金計算期間に合わせて設計することが一般的です。就業規則は1日起算なのに、勤怠システムは給与締め日の翌日でリセットされる、といった不一致を避けます。
1日の途中で60時間を超える場合
月の累計が58時間の状態で、その日に5時間の法定時間外労働をした場合、最初の2時間で累計60時間となり、その後の3時間が50%以上の対象です。その日の5時間すべてを25%または50%にまとめません。
勤怠システムには、月合計だけでなく、勤務時刻のどの位置で60時間を超えたかを給与システムへ渡せることが必要です。深夜帯をまたぐ場合は、50%への切替時刻と午後10時の両方で時間を分割します。
月をまたいだら新しい起算期間で集計する
前月に55時間、当月に10時間の法定時間外労働があっても、起算期間が異なれば合算して65時間とはしません。ただし、36協定には複数月平均や年単位の上限もあるため、割増賃金の月次集計がリセットされても、上限管理までリセットしてよいわけではありません。
月60時間になる前に36協定の上限を確認する
50%の割増賃金を支払えば、月60時間を超えて自由に残業させられるわけではありません。
時間外労働の原則的な上限は月45時間・年360時間です。月45時間を超えるには、臨時的な特別の事情があり、特別条項付き36協定の範囲内であることなどが必要です。さらに、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限も確認します。
つまり、月60時間は割増率の境界である一方、その前の月45時間で36協定上の重要な境界を越えています。36協定の上限時間と勤怠管理で、自社の協定内容も確認してください。
給与締め前ではなく、途中で対応
- 1月35時間前後今後の勤務予定と業務配分を確認する
- 2月45時間前36協定の原則限度と特別条項の要否を確認する
- 3月55時間前後60時間到達見込みと深夜・休日勤務を精査する
- 4月60時間超50%対象時間、健康確保、上限規制を確認する
運用の要点実績だけでなく、確定シフトと残業予定を含めて到達見込みを先に把握します。
代替休暇は「引上げ分」を有給の休暇へ替える制度
月60時間を超える法定時間外労働をした従業員には、労使協定に基づき、50%以上への引上げ分の割増賃金に代えて、有給の代替休暇を与えられる場合があります。
代替休暇を設ければ、月60時間超の残業代をすべて支払わなくてよいわけではありません。少なくとも、代替休暇を取得した場合に支払うと定めた25%以上の割増賃金は、通常の賃金支払日に支払う必要があります。
代替休暇の導入に必要なこと
- 事業場で労使協定を締結する
- 代替休暇の時間数の算定方法を定める
- 取得単位を1日または半日として定める
- 月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内で取得期間を定める
- 取得日の決定方法と割増賃金の支払方法を整理する
- 休暇・賃金に関する事項を就業規則へ記載する
労使協定があっても、代替休暇を実際に取得するかは従業員の意思によります。会社が一方的に取得を義務付けることはできません。
代替休暇の計算例
月の法定時間外労働が76時間、代替休暇を取得しなければ50%、取得する場合は25%の割増賃金を支払う定めなら、換算率は25%です。
(76時間 − 60時間)× 25% = 4時間
この例では、4時間の代替休暇を与えられます。実際には、労使協定で半日の単位をどう定義するか、取得しなかった場合に引上げ分をいつ支払うかまで定めます。
振替休日と代休とは目的も計算方法も異なる制度なので、勤怠システムの休暇コードを共用しないようにします。
勤怠・給与システムで確認したい9つの設定
月60時間超の誤計算は、勤怠と給与のどちらか一方だけを見直しても防ぎにくい問題です。次の項目を一つの流れで確認します。
1. 1か月の起算日
就業規則、賃金計算期間、勤怠集計、給与計算の起算日を一致させます。
2. 法定内残業と法定時間外労働の分離
所定労働時間を超えただけの法定内残業を、月60時間の累計へ含めないようにします。
3. 法定休日と法定外休日の分離
法定休日労働は除外し、法定外休日の法定時間外労働は含めます。休日コードだけでなく週40時間の再計算も確認します。
4. 変形労働時間制・フレックスタイム制の時間外判定
各制度の法定時間外労働を正しく確定してから、月の累計へ加えます。日ごとの所定時間超を単純合計する設定では、法定額とずれる場合があります。
5. 60時間を超えた時刻での分割
1勤務の途中で累計60時間を超えた場合に、25%以上の部分と50%以上の部分を分けます。
6. 深夜割増との重複
月60時間超の時間外労働と深夜労働が重なる時間を75%以上として計算できるか確認します。
7. 申請時間と実労働時間の差
承認済みの残業申請だけを累計せず、実際の始業・終業時刻と修正履歴を基礎にします。未申請残業の社内対応と、労働時間・賃金の計算は分けます。
8. 代替休暇の残数と支払管理
取得可能時間、本人の意向、取得期限、実際の取得、未取得時の引上げ分支払いを追えるようにします。
9. 給与連携後の突合
勤怠側の「60時間以下」「60時間超」「法定休日」「深夜」の時間数と、給与明細の支給項目を毎月突合します。勤怠の丸め処理も確認し、日ごとの切り捨てで累計時間を減らさないようにします。
現場で起きやすい6つの誤処理
月60時間になった時点で全時間を50%へ変更する
50%以上の対象は60時間を超えた部分です。60時間までの部分をさかのぼって50%へ変更する制度ではありません。
法定休日労働を60時間へ含める
法定休日労働は35%以上で別集計します。ただし、36協定の単月100時間未満・複数月平均80時間以内の確認では時間外労働と休日労働の合計を見るため、割増賃金と同じ集計項目を流用しないようにします。
法定外休日の時間外労働を除外する
会社カレンダー上の休日という理由だけで除外しません。法定外休日の勤務が週40時間超などの法定時間外労働になれば、月60時間へ含めます。
残業申請の承認時間だけで判定する
申請より長く働いた実態を会社が把握していれば、その時間も適正に確認する必要があります。労働時間の判断基準に沿って、打刻や客観記録との差を調べます。
給与締め日と異なる日で累計をリセットする
就業規則、勤怠、給与で1か月の範囲がずれると、50%へ切り替える勤務日が変わります。
代替休暇で残業代全額を相殺する
代替休暇へ替えられるのは、労使協定で定めた引上げ分です。取得の意思確認や期限管理をせず、会社が自動的に休暇へ振り替えることもできません。
まとめ:60時間の合計ではなく、時間区分と超えた位置を見る
月60時間超の割増賃金を正しく計算するには、月末の合計時間だけでなく、何を累計し、どの勤務で境界を超えたかを確認します。
- 1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分は50%以上
- 60時間ちょうどまでは、法定上は原則25%以上
- 法定休日労働は60時間へ含めず、35%以上で別計算する
- 法定外休日の法定時間外労働は60時間へ含める
- 月60時間超と深夜労働が重なる時間は合計75%以上
- 60時間に達する前に、月45時間の36協定上限を確認する
- 代替休暇は引上げ分が対象で、労使協定と従業員の意思が必要
- 勤怠と給与で、起算日、時間区分、割増率、休暇管理を一致させる
まず、直近で法定時間外労働が多かった従業員を一人選び、起算日から日ごとの法定時間外労働を並べてください。法定休日を除き、法定外休日を正しく含め、累計60時間を超えた時刻と給与明細の50%対象時間が一致するかを確認します。
月次集計を手作業で組み替えている、休日区分や深夜時間との重複が追えない、代替休暇の未取得分を管理できていない場合は、勤怠チェックから給与連携までの運用を一体で整える必要があります。