「基本給には25%を掛けているので、残業代の計算は合っている」。そう思って確認すると、役職手当や資格手当が1時間単価から外れていた、ということがあります。

残業代は、割増率だけで決まりません。先に、どの賃金を1時間単価の計算へ入れるかを決めます。ここを誤ると、時間外・休日・深夜のすべての計算結果に差が広がります。

特に注意したいのが、「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」です。この名称なら自動的に除外できるわけではありません。扶養家族の人数、通勤費・距離、住宅費などに応じて算定しているかという支給条件の実質で判断します。

この記事の結論 割増賃金の計算基礎から除外できる賃金は、法令上の7項目に限られます。基本給のほか、役職・資格・職務・精皆勤などの毎月の手当は原則として算入します。家族・通勤・住宅手当も、全員一律や事情に関係のない定額支給なら除外できない場合があります。

人事担当者と経営者が、割増率ではなく残業単価へ含めた手当の一覧と計算結果を見比べ、差に気づいた場面
割増率が正しくても、1時間単価から必要な手当が抜けていれば残業代は不足します。

残業代の確認は「時間・単価・割増率」の3つに分ける

残業代の計算結果に差があると、最初に残業時間を疑いがちです。しかし、確認する数字は三つあります。

残業代を構成する三つの数字

どの段階で差が生じたかを分けると、勤怠と給与の担当範囲も整理できます。

数字主な確認内容主な確認先
対象時間時間外、法定休日、深夜、月60時間超の時間数打刻、申請、勤怠集計
1時間単価算入する賃金と月平均所定労働時間数賃金規程、給与項目マスタ
割増率25%、35%、50%や深夜との重複給与計算式、割増区分

時間外・休日・深夜労働が重なる場合の割増率は別の記事で整理しています。本記事では、二つ目の「1時間単価」を中心に解説します。

計算基礎から除外できる賃金は7項目だけ

労働基準法第37条と労働基準法施行規則第21条では、割増賃金の計算基礎へ算入しない賃金を限定しています。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

この7項目は、制限なく広げて解釈するものではありません。「調整手当」「地域手当」「職務手当」などを会社の判断で除外項目へ追加することはできません。

また、1〜5の手当は、名称だけでなく支給の目的と算定方法を確認します。賃金規程に「家族手当」と書いてあることより、実際に誰へ、何を基準に、いくら支給しているかが重要です。

家族・通勤・住宅手当は支給条件で判断する

三つの手当は、給与明細上の名称が同じでも結論が分かれます。

除外できる例・できない例

個人的事情や実際の費用に応じて算定しているかを確認します。

手当除外できると考えやすい例除外できない例
家族手当扶養家族1人ごとに定めた額を支給扶養人数に関係なく対象者へ一律1万5,000円
通勤手当定期券代、実費、通勤距離に応じて支給費用や距離に関係なく全員へ1日300円
住宅手当家賃や住宅ローン月額の一定割合を支給賃貸なら2万円、持家なら1万円と定額支給

家族手当

除外できる家族手当は、扶養家族の人数や、それを基礎とする額によって算定するものです。たとえば、配偶者1万円、その他の扶養家族1人につき5,000円という定めが該当します。

一方、扶養家族が1人でも3人でも一律1万5,000円なら、家族数を基礎に算定していません。名称が家族手当でも、計算基礎へ入れる必要があります。

通勤手当

定期券代、実際の通勤費、通勤距離などに応じて算定する通勤手当は、除外できます。所得税の非課税限度額と、割増賃金の除外条件は別の制度です。税務上の処理だけで判断しません。

全従業員へ距離に関係なく同額を支払う場合や、「近距離・遠距離」の区分が実際の費用・距離と対応していない場合は、算定方法を確認する必要があります。

住宅手当

除外できる住宅手当は、住宅に要する費用に応じて算定するものです。家賃や住宅ローン月額へ一定割合を掛ける方法などが考えられます。

賃貸・持家といった住宅の形態だけで定額を決め、実際の費用と連動しない手当は除外できません。「世帯主だけに支給」「賃貸居住者だけに支給」という対象条件だけでは、住宅費に応じた算定とは限らない点にも注意します。

人事担当者が家族、通勤、住宅の三つの手当について、一律の支給額と個別事情に応じた支給額の違いを経営者へ説明している場面
手当名ではなく、支給対象と金額が何に連動しているかを賃金規程と実績から確認します。

残り4項目も「名前」だけで判断しない

別居手当・子女教育手当

単身赴任などによる別居費用、子の教育費といった個人的事情に基づいて支給する手当です。職務や勤務地に対する手当を、名称だけ「別居手当」「教育手当」としても除外できるわけではありません。

臨時に支払われた賃金

結婚祝金など、支給事由の発生が不確定で、非常にまれに支払われる賃金が典型です。「今月だけ支払った」という事実だけで臨時賃金になるとは限りません。

たとえば、毎月の目標達成に応じて支給する手当や、支給条件があらかじめ決まっており頻繁に支払われる手当は、実態を確認します。

1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

半年ごとに支払う賞与などが典型です。ただし、年俸額の一部を「賞与」と呼びながら、支給額があらかじめ確定し、実質的に月例賃金と一体になっている場合などは、名称だけでは判断できません。

支給対象期間、支給間隔、金額の確定方法を確認します。

基本給以外で計算基礎へ入れやすい手当

7項目に該当しない通常の賃金は、原則として計算基礎へ入れます。たとえば次の手当です。

  • 役職手当
  • 職務手当
  • 資格手当
  • 技能手当
  • 地域手当
  • 調整手当
  • 精皆勤手当
  • 毎月定額で支給する在宅勤務手当
  • 実費や距離と連動しない定額の家族・通勤・住宅手当

精皆勤手当は、最低賃金の計算では除外される賃金に挙げられますが、割増賃金の計算基礎から除外できる7項目には含まれません。最低賃金、社会保険、所得税、割増賃金では対象賃金の範囲が異なるため、他制度の設定をそのまま流用しないことが大切です。

在宅勤務手当は定額支給か実費弁償かを分ける

在宅勤務手当は、法令上の7項目には含まれていません。毎月定額を賃金として支給するなら、原則として割増賃金の計算基礎へ算入します。

一方、従業員が負担した通信費や電気料金などを、合理的・客観的な方法で計算して実費弁償するものは、賃金に当たらず、計算基礎への算入を要しない場合があります。給与項目名だけでなく、計算根拠、申請資料、超過精算の有無を残します。

固定残業代は基礎賃金と分ける

固定残業代そのものは、所定外労働に対する賃金です。基本給や各種手当と区分し、通常の賃金から正しい1時間単価と法定の割増賃金額を計算したうえで、固定残業代がその額以上かを確認します。

基本給へ固定残業代を含めたまま内訳を示さない、固定残業代を払っているので他の手当を単価から外す、といった処理は別の問題を生じさせます。

月給者の1時間単価を計算する

月によって所定労働時間数が異なる月給者は、通常、次の形で1時間当たりの賃金を求めます。

1時間当たりの賃金 = 計算基礎へ入れる月給額 ÷ 1年間における1か月平均所定労働時間数

1か月平均所定労働時間数は、年間の所定労働時間数を12か月で割って求めます。就業規則や賃金規程の数字を固定入力するだけでなく、休日数や1日の所定労働時間を変更したときに再計算します。

【計算例】定額の住宅手当を含める

次の月給者を例にします。

  • 基本給:25万円
  • 役職手当:3万円
  • 資格手当:2万円
  • 住宅手当:2万円(賃貸居住者へ家賃額に関係なく定額支給)
  • 家族手当:1万円(扶養家族の人数に応じて支給)
  • 通勤手当:1万2,000円(定期券代の実費)
  • 1か月平均所定労働時間数:160時間

家族手当と通勤手当は、除外条件を満たす前提です。住宅手当は住宅費に応じて算定していないため、計算基礎へ入れます。

計算基礎:25万円 + 3万円 + 2万円 + 2万円 = 32万円

1時間当たりの賃金:32万円 ÷ 160時間 = 2,000円

法定時間外労働が10時間、割増率が25%以上なら、単純化した計算は次のとおりです。

2,000円 × 1.25 × 10時間 = 25,000円

住宅手当2万円を誤って除外すると、1時間単価は1,875円となり、10時間分だけでも計算差が生じます。深夜労働、法定休日労働、月60時間超の時間外労働にも同じ基礎単価を使うため、影響はさらに広がります。

給与担当者と経営者が、原則として算入する賃金項目と限定された除外項目を分け、月平均所定労働時間数から1時間単価を作っている場面
分子の賃金項目と分母の月平均所定労働時間数を別々に確認してから、割増率を適用します。

よくある5つの設定ミス

1. 給与項目名だけで除外している

「住宅」「家族」「通勤」という文字を含む項目を一括で対象外にすると、一律支給の手当まで外れることがあります。給与項目ごとに支給条件を確認します。

2. 新設手当の初期値が対象外になっている

資格手当、物価調整手当、在宅勤務手当などを追加した際、割増基礎の対象フラグを設定し忘れるケースです。新しい給与項目を作る申請書に、割増基礎、最低賃金、社会保険、所得税の判定欄を分けて設けます。

3. 欠勤控除単価と残業単価を同じにしている

欠勤控除の算定方法は、就業規則・賃金規程の定めによります。割増賃金の法定計算とは目的が異なるため、「給与システムに単価を一つしか持てない」という理由で同じ式にしないようにします。

4. 年間休日や所定時間を変えても分母を更新していない

年間休日を増やした、1日8時間から7時間30分へ変更したなどの後に、月平均所定労働時間数が前年のまま残ることがあります。分母が大きすぎれば、1時間単価は低くなります。

5. 遡及昇給や手当変更を残業代へ反映していない

基本給や対象手当を過去月へ遡って改定した場合、その期間の1時間単価も変わります。月例給与の差額だけでなく、時間外・休日・深夜の割増賃金差額まで再計算します。

給与システムを点検する順番

一人・一賃金計算期間で突合する

  1. 1賃金規程手当の目的、対象者、算定方法を確認
  2. 2給与項目マスタ割増基礎の対象・対象外フラグを確認
  3. 31時間単価算入額と月平均所定労働時間数を手計算
  4. 4給与結果時間区分、割増率、端数処理、差額を突合

確認の要点手当名ではなく、支給条件から対象フラグまで同じ判断でつながっているかを見ます。

まず対象者を一人選ぶ

基本給以外の手当が多く、時間外・深夜・休日労働がある従業員を一人選びます。家族・通勤・住宅手当のいずれかがある人なら、除外条件も同時に確認できます。

支給実績から手当一覧を作る

賃金規程だけでなく、直近12か月の給与明細から実際に支給した項目を洗い出します。規程にない手当、廃止したはずの手当、個人だけに手入力している項目も確認します。

手計算とシステム結果を比べる

算入する月給額、1か月平均所定労働時間数、1時間単価、時間区分、割増率の順に並べます。差があれば、端数処理だけで説明せず、どの項目から差が始まったかを特定します。

誤りがあれば対象期間と対象者を広げる

同じ給与項目マスタを使う従業員、手当の新設日、システム移行日などから影響範囲を決めます。未払いの可能性がある場合は、設定変更だけで終わらせず、過去分の調査と精算を検討します。

人事、給与、経営の担当者が、賃金規程、給与項目マスタ、1時間単価、給与結果を順につなげて点検している場面
規程、マスタ、計算結果を一つの流れで照合し、判断根拠と修正履歴を残します。

まとめ:手当名ではなく算定方法から残業単価を作る

割増賃金の計算基礎を確認するときは、次の点を押さえます。

  1. 除外できる賃金は法令上の7項目に限定される
  2. 家族・通勤・住宅手当は、個人的事情や実際の費用に応じた算定かを確認する
  3. 役職・資格・職務・精皆勤などの通常の手当は原則として算入する
  4. 在宅勤務手当は、定額の賃金か合理的に算定した実費弁償かを分ける
  5. 月給者は、算入する月給額を1か月平均所定労働時間数で割る
  6. 年間休日、所定時間、手当、昇給を変更したときは単価も再計算する
  7. 賃金規程、給与項目マスタ、給与結果を一人分ずつ突合する

残業時間と割増率が正しくても、計算基礎に必要な手当が入っていなければ、支給額は正しくなりません。月60時間を超える時間外労働36協定の上限管理とあわせて、時間と単価の両方を確認してください。

給与項目が多い、手当の支給条件が規程と実態で異なる、システム移行後の単価に不安がある場合は、一人・一期間の手計算から始めると影響範囲を整理しやすくなります。