「18時8分に退勤したのに、勤怠システムでは18時ちょうどになっている」「残業は15分単位でしか申請できない」——このような丸め処理は、勤怠管理を簡単にするために使われてきました。

しかし、実際に働いた時間を日ごとに5分、10分、15分単位で一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない運用は認められません。厚生労働省も、1日の時間外労働のうち15分未満を切り捨てる設定や、30分未満の残業申請を認めない運用を、労働基準法違反の例として示しています。

一方で、打刻した時刻から所定始業時刻までの時間が、すべて労働時間になるわけでもありません。早く到着して私用で過ごしていた時間と、会社の指示で準備をしていた時間は分けて確認する必要があります。

この記事では、勤怠管理に携わる経営者・人事担当者の方に向けて、問題となる丸め処理、認められる端数処理、勤怠システムで見直したい設定を具体例で解説します。

この記事の結論 実際に働いた時間は、日ごとに適正に把握し、その時間に応じた賃金を支払うことが原則です。5分・10分・15分未満を一律に切り捨てる設定は避けます。ただし、打刻時刻と労働時間は同じとは限らないため、打刻前後の行動を確認し、必要な修正を記録できる運用にします。

終業後の片付けを続ける従業員のそばで、人事担当者と経営者が打刻記録と処理後の勤怠データのずれに気づいた場面
数分でも実際に仕事をしていれば労働時間です。システムが自動で消していないか、元の打刻と処理後の記録を確認します。

日ごとの労働時間を一律に切り捨てる丸め処理は認められない

労働基準法第24条は、賃金を全額支払うことを原則としています。実際に労働した時間があるのに、勤怠システムの設定だけを理由にその時間を消し、賃金を支払わなければ、全額払いの原則に反する可能性があります。

厚生労働省のリーフレットでは、次のような運用が違反例として挙げられています。

  • 1日の時間外労働のうち、15分に満たない時間を一律に切り捨てる
  • 残業申請を30分単位に限定し、30分未満の時間外労働を申請させない
  • 打刻前に義務付けた着替え、清掃、朝礼などを労働時間に含めない

問題は「15分」という数字そのものではありません。5分単位でも10分単位でも、実際に働いた時間を日ごとに従業員側へ不利に切り捨てることが問題です。

「労働時間は1分単位」の意味

厚生労働省の事業者向け解説では、1日の労働時間は1分単位で計算し、切り捨てることはできないと案内されています。ただし、これは「タイムカードの打刻から打刻までを、事情を確認せず1分残らず賃金計算へ入れる」という意味ではありません。

まず、会社の指揮命令下にあった実際の労働時間を確認します。そのうえで、確認した時間を日ごとに一律切り捨てせず集計する、という順序です。どこまでが労働時間になるかは、労働時間の判断基準をケース別に解説した記事もあわせて確認してください。

従業員に有利な切り上げはできる

たとえば、1日の時間外労働が8分だったときに15分として賃金を支払うなど、実際の時間を上回るよう従業員に有利に処理することは問題ありません。

「丸め機能はすべて使えない」のではなく、実労働時間を下回る切り捨てになっていないかが判断の中心です。

打刻時刻・労働時間・賃金計算時間を分けて考える

勤怠システムの見直しでは、打刻から給与計算までを一つの数字として扱わないことが大切です。少なくとも、次の4段階に分けて確認します。

打刻から給与計算まで

  1. 1元の打刻端末・スマートフォン・ICカードが記録した時刻
  2. 2実態の確認その時間に仕事をしていたか、私用・移動・休憩だったか
  3. 3承認後の労働時間申請と上司の確認を反映した、日ごとの確定記録
  4. 4給与・上限管理賃金、割増賃金、36協定、健康確保に使う集計

重要元の打刻を消さず、誰が・なぜ・どの時刻へ修正したかを追える状態にします。

早く打刻しただけなら、始業前のすべてが労働時間とは限らない

所定始業が9時の会社で、従業員が8時50分に打刻したとします。打刻後に休憩スペースで朝食を取り、9時から仕事を始めたのであれば、8時50分からの10分が直ちに労働時間になるわけではありません。

一方、8時50分に打刻した後、上司の指示でパソコンを起動し、メール確認や開店準備をしていたなら、その作業時間は労働時間に該当し得ます。始業時刻へ丸める前に、打刻後の行動を確認します。

早く打刻した後に飲み物を飲んで私用のスマートフォンを見る人と、上司の指示でパソコンを起動して準備作業を始める人を対比した場面
同じ早出の打刻でも、自由に過ごしていた時間と、指示を受けて準備をしていた時間では扱いが変わります。

遅い退勤打刻も、差分をすべて残業と決めつけない

終業が18時で、退勤打刻が18時12分だった場合も同じです。日報、清掃、レジ締め、引継ぎなどをしていたなら、その時間を把握します。私的な会話や着替え後の滞在で、仕事から離れていたなら、打刻との差を労働時間から外すことは考えられます。

ただし、「18時以降は残業を命じていない」と会社が考えているだけでは足りません。上司が終業後の作業を認識していた、所定時間内に終わらない仕事量を与えていた、といった場合は黙示の指示が問題になります。

問題になる丸め処理をケース別に確認

ケース1:出勤を切り上げ、退勤を切り下げる

8時56分の出勤を9時に、18時8分の退勤を18時にする設定では、1日に最大で始業側と終業側の両方から労働時間が消える可能性があります。

実際には9時から18時までしか働いていないなら、その実態に合わせて確定することはできます。しかし、8時56分から準備を始め、18時8分まで片付けをしていたなら、機械的に9時から18時へ直すことはできません。

ケース2:残業申請を15分・30分単位に限定する

「15分に達しなければ申請できない」「30分ごとに入力する」という制限は、短い残業を申告できなくするため問題です。

残業の事前承認制を設けること自体は、業務管理の方法として考えられます。ただし、承認がなかった場合の社内ルール上の対応と、会社が把握した実労働時間に対して賃金を支払うことは分けます。申請画面は、少なくとも実際の始業・終業時刻や分数を入力できるようにします。

ケース3:所定時刻の前後を自動で無視する

システムによっては、「始業前は所定始業時刻へ切り上げる」「終業後は申請がなければ所定終業時刻に戻す」といった設定があります。

この設定を使うなら、始業前・終業後に仕事が発生しない業務設計と、例外が生じたときに本人が申請できる仕組みが必要です。元の打刻を確認できず、例外申請もできない状態は避けます。

ケース4:休憩を一律に自動控除する

「6時間を超えたら45分」「8時間を超えたら60分」を勤怠システムが自動で差し引いていても、実際にその休憩を取れたとは限りません。

飲食店で休憩中に来客対応をした、介護施設で利用者対応のため休憩を中断した、事務所で電話番を続けた、といった場合は、実態を確認して修正します。休憩の長さと自由利用の考え方は、休憩時間の基本ルールで詳しく解説しています。

飲食店で休憩中の従業員が電話と来客に対応し、人事担当者が自動控除された休憩時間を修正しようとしている場面
自動控除を使う場合でも、休憩できなかった時間を申告・承認して戻せる手順が必要です。

ケース5:5分の遅刻を30分として賃金から控除する

働かなかった5分に対応する賃金を控除することと、30分働かなかったものとして扱うことは別です。行政通達では、5分の遅刻を30分として賃金カットする例について、労務提供がなかった時間を超える25分分の控除は、賃金全額払いの原則に反すると示されています。

遅刻に対する懲戒上の減給を行う場合は、就業規則の根拠や労働基準法第91条の制限を別に確認します。勤怠システムの端数処理だけで、自動的に過大な控除をしないようにします。

丸め処理の確認早見表

結論は実際に働いたかで変わります。システム設定だけで判断しないことがポイントです。

運用問題になりやすい状態見直しの方向
出勤の切り上げ始業前の準備時間まで所定始業時刻へ丸める打刻後の行動を確認し、実労働時間を反映する
退勤の切り下げ片付けや日報の時間を所定終業時刻へ戻す終業後作業をなくすか、実績を申請できるようにする
残業申請15分・30分未満は入力も申請もできない実際の時刻・分数で申請できる画面にする
休憩の自動控除休憩できなかった日も一律に差し引く中断・未取得を申告し、承認後に戻せるようにする
遅刻・早退働かなかった時間を超えて賃金を控除する不就労時間と懲戒上の扱いを分ける
元データ丸め後の時刻しか残らず、修正履歴も見えない元の打刻、申請理由、承認者、修正日時を保存する

月単位で認められる端数処理は限定的

日ごとの切り捨てには使えない一方、行政通達では、事務を簡便にするための限定的な端数処理が認められています。

対象は、1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各時間数の合計に生じた1時間未満の端数です。それぞれの月間合計について、次の処理が認められます。

  • 30分未満の端数を切り捨てる
  • 30分以上の端数を1時間へ切り上げる

たとえば、1か月の法定時間外労働が20時間29分なら20時間、20時間30分なら21時間として割増賃金を計算する方法です。切り捨てだけでなく切り上げも組み合わせるため、常に従業員へ不利になるものではない端数処理として扱われています。

例外を日ごとの丸めへ広げない

月末に端数処理できるからといって、毎日の12分、8分、6分を先に切り捨ててから合計することはできません。先に日々の実労働時間を適正に積み上げ、最後に月間合計の1時間未満の端数を処理します。

また、この例外は賃金計算上の限定的な取り扱いです。元の実労働時間は保持し、36協定の上限確認や長時間労働者の健康確保まで、丸め後の短い時間だけで管理しないようにします。36協定の上限時間と確認ポイントもあわせて確認してください。

法定内残業と法定時間外労働を混同しない

会社の所定労働時間が1日7時間の場合、7時間を超えて8時間まで働いた部分は、一般に「残業」と呼ばれていても、原則として法定時間外労働ではありません。

勤怠システムの項目名だけを見て、月次端数処理の対象を決めないことが大切です。所定時間を超えた時間、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働を区分し、給与計算側の設定と照合します。違いは法定労働時間と残業の基本で整理しています。

勤怠システムで確認したい7つの設定

丸め処理を見直すときは、設定画面だけでなく、打刻、申請、承認、給与連携まで通して確認します。

1. 元の打刻時刻が残るか

丸め後の時刻で元データを上書きせず、端末が受け取った時刻を確認できる状態にします。打刻漏れや誤打刻を直した場合も、修正前後の値を残します。

2. 出勤・退勤に切り上げ・切り下げが設定されていないか

全社設定だけでなく、雇用区分、勤務パターン、事業所、従業員個別の設定を確認します。過去に作った勤務区分だけ丸めが残っていることもあります。

3. 残業申請を実際の時刻で入力できるか

申請単位が15分や30分に固定されていないか、スマートフォン画面も含めて確認します。「18時から18時8分」のように短い時間でも申請できる必要があります。

4. 申請がない差分を自動で消していないか

未申請の残業を警告として表示することと、実績から自動的に削除することは別です。打刻と申請に差がある日は、本人と上司が理由を確認して締められるようにします。

5. 休憩の例外修正ができるか

自動休憩、シフト休憩、打刻休憩の優先順位を確認します。休憩中に働いたとき、従業員が中断時間を申告し、承認者が修正できる手順を用意します。

6. 給与ソフトへ渡す前後で丸めが重複していないか

勤怠システムでは分単位でも、CSV出力、給与ソフトの取込設定、給与計算式で再び丸められることがあります。テスト用の勤務データを作り、勤怠画面、出力ファイル、給与明細の時間数を突合します。

7. 修正履歴と承認履歴を確認できるか

誰が、いつ、どの値を、どの理由で修正したかを残します。本人申請、上司承認、人事確定の役割を分けると、後から経緯を説明しやすくなります。

従業員が打刻修正を申請し、上司が承認し、人事担当者が元記録から給与連携までの履歴を確認している場面
例外をなくすのではなく、元の記録を残したまま申請・承認・給与反映まで追える運用にします。

すでに丸め処理を使っている会社の見直し手順

設定を見つけても、影響範囲を確認せずに当日から変更すると、給与連携や現場の申請方法が追いつかないことがあります。次の順序で進めます。

1. どこで時間が変わっているかを特定する

勤怠端末、勤怠システム、申請画面、CSV、給与ソフトの各段階で、同じ従業員・同じ日の時刻を比較します。所定始業前、所定終業後、休憩、遅刻早退、日跨ぎ勤務を含むテストケースを用意すると確認しやすくなります。

2. 現場で打刻前後に行う作業を確認する

システム上の差分だけでなく、着替え、朝礼、清掃、パソコン起動、レジ開閉、引継ぎなどを洗い出します。打刻を所定時刻に寄せるのではなく、必要な作業を所定時間内へ移すことも検討します。

3. 過去の未払いがないか調べる

元の打刻、入退館記録、パソコンの利用記録、残業申請、業務日報などを照合します。実際に働いた時間が切り捨てられていた可能性がある場合は、対象期間と賃金額を確認し、対応を検討します。

4. 設定と申請ルールを一緒に変更する

丸め設定だけを解除しても、現場が「15分未満は申請しない」と考えたままでは記録は変わりません。申請単位、締め日までの修正期限、承認者、休憩中断の申告方法を周知します。

5. 変更後の給与計算をテストする

通常勤務だけでなく、早出、残業、深夜、法定休日、遅刻、休憩未取得を含むケースで確認します。1日の労働時間、月間集計、割増賃金、給与明細が一貫しているかを見ます。

実務チェック 「丸めを解除したら残業が増えた」のではなく、これまで記録から消えていた実労働時間が見えるようになった可能性があります。差分が大きい部署では、設定変更だけで終わらせず、仕事の開始・終了方法や管理職の指示も見直します。

法律と行政資料から整理する根拠

丸め処理を考えるときは、賃金の支払いと労働時間の把握をセットで確認します。

賃金全額払いの原則

労働基準法第24条は、賃金を全額支払うことを原則としています。実際に働いた時間を日ごとに切り捨て、その時間に対応する賃金を支払わない場合、この原則に反する可能性があります。法定時間外・法定休日・深夜の労働には、同法第37条に基づく割増賃金も必要です。

始業・終業時刻を確認し、記録する責務

厚生労働省の労働時間適正把握ガイドラインは、会社が労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することを求めています。原則的な方法は、会社による現認、またはタイムカード、ICカード、パソコンの利用時間などの客観的な記録を基礎にする方法です。

自己申告制を併用する場合も、申告できる残業時間に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる運用をしないことが必要です。申告と客観記録に大きな差がある場合は、理由を調査して補正します。

月次端数処理の根拠

昭和63年3月14日基発第150号では、1か月の時間外労働、休日労働、深夜労働の各合計に生じた1時間未満の端数について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる方法を、事務簡便のための取り扱いとして示しています。

これは、日々の労働時間を切り捨ててよいという根拠ではありません。厚生労働省の2024年9月のリーフレットも、日ごとの一律切り捨てと月間合計の例外を分けて説明しています。

まとめ:丸め設定ではなく実労働時間を基準にする

勤怠の丸め処理を見直すときは、「何分単位ならよいか」ではなく、実際に働いた時間が記録と賃金へ反映されているかを確認します。

  • 日ごとの5分・10分・15分未満を一律に切り捨てない
  • 打刻時刻と実労働時間が異なる場合は、行動の実態を確認する
  • 残業申請は短い時間でも実績どおり入力できるようにする
  • 休憩の自動控除には、中断・未取得を戻す手順を設ける
  • 元の打刻、修正理由、承認履歴を残す
  • 月次の端数処理は、認められた対象と方法に限定する
  • 勤怠システムと給与ソフトの両方で設定を確認する

まずは1人・1日分のデータについて、元の打刻から給与明細まで数字を追ってみてください。そこで時間が変わっていれば、設定による変換なのか、申請・承認による修正なのか、理由を説明できる状態にすることが第一歩です。

丸め設定が複数の勤務区分に残っている、過去分の影響範囲が分からない、就業規則と申請運用が一致していないといった場合は、勤怠システムの設定と現場運用を一緒に確認する必要があります。