「10時間働いた日は2時間残業」「6時間しか働かなかった日は2時間欠勤」と、固定勤務と同じ方法で処理していないでしょうか。

フレックスタイム制では、労働者が日々の始業・終業時刻を決めます。そのため、ある日に8時間を超えても、直ちに法定時間外労働になるとは限りません。反対に、清算期間の最後にまとめて確認すると、途中の月ですでに時間外労働が発生していたことを見落とす場合があります。

この記事では、勤怠管理に携わる経営者・人事担当者の方に向けて、清算期間が1か月の場合と1か月を超える場合の残業計算、過不足時間、法定休日・深夜労働、勤怠システムで確認したい設定を解説します。

この記事の結論 清算期間が1か月以内なら、原則として法定休日労働を除く実労働時間が「清算期間の法定労働時間の総枠」を超えた部分を法定時間外労働として判定します。清算期間が1か月を超える場合は、これに加えて、1か月ごとに週平均50時間を超えた部分を途中で判定します。所定総労働時間の超過、法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働は、それぞれ意味が異なるため分けて集計します。

人事担当者と従業員が、日ごとに異なる始業・終業時刻を月の清算期間全体で確認している場面
フレックスタイム制の残業は、1日だけを切り取らず、清算期間と月ごとの集計から確認します。

フレックスタイム制は日々の始業・終業を労働者が決める制度

フレックスタイム制は、あらかじめ一定期間の総労働時間を定め、その範囲内で労働者が日々の始業・終業時刻を決める制度です。この一定期間を清算期間といい、上限は3か月です。

たとえば、月曜日は10時間、火曜日は6時間働き、仕事や生活に合わせて時間を配分できます。適法に制度を導入していれば、月曜日に8時間を超えた2時間が、その日の時点で直ちに法定時間外労働になるわけではありません。

ただし、「自由な勤務」と「労働時間を管理しなくてよい」は別です。会社は各日の始業・終業時刻と実労働時間を把握し、清算期間の途中も長時間労働や深夜労働を確認する必要があります。

導入には就業規則等と労使協定が必要

フレックスタイム制を導入するには、就業規則その他これに準ずるものに、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めます。加えて、労使協定で次の事項を定めます。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間と起算日
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイムを設ける場合は、その開始・終了時刻
  • フレキシブルタイムを設ける場合は、その開始・終了時刻

コアタイムとフレキシブルタイムは必須ではありません。ただし、コアタイムが1日の労働時間とほぼ同じ長さだったり、選べる始業・終業の幅が極端に狭かったりすると、労働者に時刻の決定を委ねる制度の趣旨と合わなくなります。

清算期間が1か月を超える場合は、労使協定に有効期間を定め、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。1か月以内の場合も労使協定の締結は必要ですが、その協定自体の届出は不要です。

残業計算で区別する4つの時間

フレックスタイム制の集計では、次の時間を一つの「残業」項目へまとめないことが重要です。

フレックスタイム制で分けて管理する時間

所定時間を超えたことと、法律上の割増賃金が発生することは同じではありません。

区分判定基準賃金の考え方
所定総労働時間の超過労使協定等で定めた総労働時間を超えた部分超過分の賃金が必要。法定総枠内なら法定の時間外割増が不要な場合もある
法定時間外労働法定労働時間の総枠超、または1か月超清算における月ごとの週平均50時間超原則25%以上の時間外割増
深夜労働午後10時から午前5時までの実労働25%以上の深夜割増。時間外と重なれば加算
法定休日労働法定休日に働いた時間35%以上の休日割増。清算期間の時間外労働とは別に扱う

たとえば、所定総労働時間を160時間、法定労働時間の総枠を171.4時間とする月に165時間働いた場合、所定時間を5時間超えています。この5時間分の賃金は必要ですが、他に時間外となる事情がなければ、法定総枠は超えていないため、法定の25%以上の時間外割増が必要な時間とは限りません。会社の賃金規程が法定以上の手当を定めている場合は、その規定に従います。

清算期間が1か月以内の場合の残業計算

清算期間が1か月以内の場合、基本となる法定労働時間の総枠は次の式で求めます。

法定労働時間の総枠 = 清算期間の暦日数 ÷ 7日 × 1週間の法定労働時間(原則40時間)

1か月を清算期間とする場合の総枠は、暦日数によって変わります。

1か月清算の法定労働時間の総枠

端数処理はシステム任せにせず、計算根拠と給与処理の単位を確認します。

月の暦日数週40時間の場合の総枠総枠ちょうど
31日177.1時間超えなければ総枠超の時間外なし
30日171.4時間超えなければ総枠超の時間外なし
29日165.7時間超えなければ総枠超の時間外なし
28日160.0時間超えなければ総枠超の時間外なし

【計算例】30日の月に180時間働いた

週40時間制で、30日間を清算期間とする場合、法定労働時間の総枠は171.4時間です。法定休日労働を除く実労働時間が180時間なら、単純化した計算では次の部分が法定時間外労働になります。

180時間 − 171.4時間 = 8.6時間

日ごとに10時間、6時間、9時間と勤務時間が変わっていても、1か月以内の清算では、原則として1日8時間超を一日ずつ時間外労働として足し上げるのではありません。

ただし、午後10時から午前5時までの時間は深夜労働として日ごとに把握します。また、法定休日に働いた時間は総枠の計算へ混ぜず、法定休日労働として別に集計します。

日ごとに長短のある勤務時間を、人事担当者が1か月の清算期間全体で合計し過不足を確認している場面
1日の長短だけでなく、清算期間全体の実労働時間、所定総労働時間、法定総枠を順に比べます。

特例措置対象事業場の週44時間は清算期間で扱いが変わる

常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の一部には、週44時間の特例があります。清算期間が1か月以内のフレックスタイム制では、この特例を使える場合があります。

一方、清算期間が1か月を超える場合は、特例措置対象事業場でも週平均40時間を基準にします。小規模な飲食店や介護事業所で3か月清算を検討する場合は、「普段は週44時間だから」と同じ設定を引き継がないよう注意が必要です。

清算期間が1か月を超える場合は二段階で判定する

2か月や3か月を清算期間にすると、最終月まで残業を確定しない運用では、特定の月に労働時間が偏りすぎるおそれがあります。このため、次の二段階で時間外労働を判定します。

1か月超の清算は月ごとの確認を先に行う

  1. 1各月の50時間基準を計算暦日数÷7日×50時間で、月ごとの境界を出す
  2. 2月ごとの超過を先に清算週平均50時間を超えた部分を、その月の時間外労働とする
  3. 3期間全体の総枠を確認最終月に、総枠超から既に清算した時間を除いて追加計上

二重計上を防ぐ月ごとに時間外とした時間を、清算期間末の総枠超で再び数えないようにします。

ステップ1:1か月ごとの週平均50時間超を確認する

各月の境界は「その月の暦日数 ÷ 7日 × 50時間」で計算します。31日なら221.4時間、30日なら214.2時間です。これを超えた時間は、清算期間が終わるのを待たず、その月の時間外労働として扱い、その月に対応する賃金支払日に割増賃金を支払います。

「50時間」は、通常の法定労働時間が週50時間へ変わるという意味ではありません。1か月を超える清算期間で、繁忙月への過度な偏りを途中で止めるための判定基準です。

ステップ2:清算期間全体の法定総枠超を確認する

清算期間の最後に、期間全体の実労働時間から、法定労働時間の総枠と、各月で既に週平均50時間超として清算した時間を差し引きます。残った超過分を、最終月の時間外労働として扱います。

【計算例】3か月で540時間働いた

厚生労働省の手引きにある、4月から6月までの91日間を清算期間とする例で確認します。

  • 3か月全体の法定労働時間の総枠:520時間
  • 4月の実労働時間:220時間(週平均50時間となる214.2時間を5.8時間超過)
  • 5月の実労働時間:180時間
  • 6月の実労働時間:140時間
  • 3か月の実労働時間合計:540時間

まず、4月の5.8時間を4月の時間外労働として清算します。次に清算期間末の追加分を計算します。

540時間 − 520時間 − 5.8時間 = 14.2時間

この14.2時間を最終月の時間外労働として扱います。3か月合計で法定総枠を20時間超えていますが、そのうち5.8時間は4月にすでに清算しているため、最終月に20時間をもう一度計上しません。

3か月の勤務予定のうち最初の月へ労働時間が偏り、人事担当者が月ごとの上限と期間全体の総枠を確認している場面
3か月全体が総枠内に見えても、途中の月が週平均50時間を超えていないかを先に確認します。

法定休日・深夜・休憩はフレックスでも別に管理する

清算期間で残業を判定することと、休日・深夜・休憩のルールは別です。

法定休日労働は清算期間の時間外労働と分ける

法定休日に働いた時間は、清算期間の総労働時間や時間外労働とは別に扱い、35%以上の休日割増賃金を支払います。法定休日以外の会社休日に働いた時間は、自動的に休日労働となるわけではなく、清算期間の実労働時間へ含めて時間外労働を判定します。

休日コードを一種類にまとめると、この区別ができません。法定休日と所定休日の違いもあわせて確認してください。

深夜労働は日ごとに把握する

午後10時から午前5時までに働いた時間には、25%以上の深夜割増が必要です。清算期間全体が所定総労働時間内でも、深夜割増はなくなりません。法定時間外労働と深夜労働が重なる部分は、両方の割増を加えます。

時間外・休日・深夜労働が重なる場合の割増率では、重複する時間帯の計算方法を整理しています。

休憩は実際の1日の労働時間で与える

フレックスタイム制でも、1日の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩が必要です。標準となる1日の労働時間が7時間だから、実際に9時間働いた日も45分でよい、とはなりません。

一斉休憩の適用がある事業場で、労働者ごとに休憩開始を選べるようにする場合は、業種による適用除外や労使協定の要否も確認します。休憩時間の基本ルールも参照してください。

所定時間の過不足は当期内での清算が原則

清算期間における総労働時間は、労働契約上、その期間に働くべき所定労働時間です。実労働時間がこの時間より多い場合と少ない場合で、翌期への扱いが異なります。

超過時間を次の清算期間へ先送りしない

実労働時間が所定総労働時間を超えた場合、超過分の賃金はその清算期間の賃金支払日に支払います。「今月5時間多く働いたので、来月5時間少なく働けば相殺」として支払いを先送りすると、賃金全額払いの原則に反するため認められません。

なお、所定総労働時間を超えたすべての時間が、法定の割増賃金対象とは限りません。前述のとおり、所定超過と法定総枠超を分けて計算します。

不足時間は賃金控除または条件付きの繰り越しを検討する

実労働時間が所定総労働時間に足りない場合、短い日があっただけで直ちに欠勤とするのではなく、清算期間全体で不足を確認します。そのうえで、労働契約や就業規則等に沿って、不足分に相当する賃金を控除する方法が考えられます。

不足分を次の清算期間へ繰り越す方法もありますが、当期は所定総労働時間分の賃金を支払い、繰り越し後の次期総労働時間が法定労働時間の総枠内に収まるよう限度を設ける必要があります。給与計算と勤怠残数の両方を同じルールにしないと、未払い・過払い・残数の累積が起きやすくなります。

完全週休2日制では曜日の巡りによる総枠超に注意する

完全週休2日制で、所定労働日1日当たり8時間を基に総労働時間を定めると、曜日の巡りによって所定労働日が多い月に、法定労働時間の総枠を超えることがあります。

週の所定労働日数が5日の労働者については、労使協定で定めることにより、清算期間内の所定労働日数 × 8時間を清算期間の労働時間の限度とできる特例があります。

「完全週休2日」という名称だけで自動適用されるわけではありません。対象者の週所定労働日数、書面による協定、勤怠システムの月別カレンダーを確認します。

勤怠システムで確認したい10の設定

フレックスタイム制は、打刻を集計するだけでは正しく計算できません。規程、労使協定、従業員マスタ、給与項目を次の順で突合します。

1. 対象者と適用開始日

部署、職種、雇用区分、個人のどの単位で適用するかを労使協定と一致させます。月途中の適用・解除、入退社、休職復職があった場合の清算方法も決めます。

2. 清算期間と起算日

1か月、2か月、3か月の別と、各期間の開始日を登録します。給与締め日と清算期間の起算日が異なる場合は、どの期間の時間外労働をどの給与で支払うか確認します。

3. 所定総労働時間と法定総枠

所定総労働時間と法定労働時間の総枠を別の値として持たせます。毎月160時間と固定する方法と、所定労働日数×所定時間で算出する方法のどちらが協定に合うか確認します。

4. 1か月超清算の週平均50時間判定

2か月・3か月清算では、各月の暦日数から50時間基準を計算し、月ごとの超過を先に確定できるか確認します。最終月の総枠超と二重計上しない設定も必要です。

5. 標準となる1日の労働時間

年次有給休暇を取得した日の時間換算などに使います。通常勤務の「固定シフト時間」と混同せず、労使協定の内容と一致させます。

6. コアタイム・フレキシブルタイム

遅刻・早退の判定、勤務可能時間外の申請、コアタイム免除の扱いを決めます。勤務可能時間外の打刻を自動で切り捨てず、実際に働いた場合の申請・確認・修正手順を用意します。

7. 不足時間と超過時間

不足分を賃金控除するか、条件付きで繰り越すかを設定します。超過分は翌期へ送らず、当期の賃金として清算します。繰越上限、失効、退職時の処理も確認します。

8. 法定休日・法定外休日・深夜

法定休日労働を清算期間の実労働から分け、法定外休日の労働は清算期間へ含めます。深夜時間は日ごとに抽出し、時間外・休日との重複も給与項目へ渡します。

9. 36協定と長時間労働アラート

フレックスでも、法定時間外労働をさせるには36協定が必要です。清算期間末だけでなく、1か月超清算の月ごとの時間外労働、月45時間超の回数、時間外・休日労働を合わせた単月・複数月平均の上限を確認します。36協定の基本と上限時間で全体像を解説しています。

10. 給与連携と締め後の訂正

所定内の超過、法定時間外、深夜、法定休日、不足控除を別項目で連携します。締め後に打刻や休日区分を訂正した場合、清算期間と給与差額を再計算できる手順を決めます。

人事、給与、現場の担当者が、打刻からフレックス集計、時間区分、給与連携までを一つの流れで点検している場面
清算期間だけでなく、休日・深夜・不足時間・給与連携まで、同じ従業員の一連のデータで突合します。

まず一人・一清算期間を手計算して設定と比べる

設定を見直すときは、全従業員を一度に確認するより、深夜勤務や休日勤務がある一人の一清算期間を選ぶと原因を追いやすくなります。

  1. 就業規則と労使協定で、対象者、清算期間、起算日、所定総労働時間を確認する
  2. 日ごとの実労働時間から、法定休日労働と深夜労働を分ける
  3. 1か月以内なら法定総枠、1か月超なら月ごとの50時間基準も計算する
  4. 所定時間の超過・不足と、法定時間外労働を分ける
  5. 勤怠システムの集計値、36協定の管理値、給与明細を突合する
  6. 差があれば、元の打刻・申請・承認・設定変更履歴まで戻る

システムと手計算が一致しても、労使協定と実際の運用がずれていれば十分ではありません。反対に、計算式だけを修正しても、現場がコアタイム外の会議や不足時間の扱いを理解していなければ、毎月の手修正が残ります。

まとめ:日別の長短ではなく、清算の層を分けて確認する

フレックスタイム制の残業計算では、次の点を押さえます。

  • 日々の始業・終業時刻は労働者が決めるため、1日8時間超が直ちに時間外労働とは限らない
  • 清算期間が1か月以内なら、原則として実労働時間と法定労働時間の総枠を比べる
  • 清算期間が1か月を超える場合は、各月の週平均50時間超を先に判定する
  • 所定総労働時間の超過と、法定時間外労働を分ける
  • 法定休日労働、深夜労働、休憩は清算期間とは別のルールで管理する
  • 超過時間は当期に支払い、不足時間の繰り越しには限度と賃金処理を定める
  • 就業規則、労使協定、勤怠設定、給与項目を同じ条件にそろえる

まずは直近の清算期間について、所定総労働時間、法定総枠、実労働時間、法定休日、深夜、不足時間を一枚に並べてください。「どの基準を超えた何時間か」を説明できれば、設定ミスや手修正の原因を絞り込めます。

清算期間が複数月にまたがる、対象者によって勤務カレンダーが異なる、給与連携後の手修正が多い場合は、労使協定と勤怠システムを一体で見直す必要があります。