「在宅勤務の日は、朝のチャットで始業、夕方のメールで終業を報告してもらっている」。この運用だけで、労働時間を適切に把握できているでしょうか。
テレワークでは、上司が働く様子を直接見られません。打刻とPCログがずれたり、家事や送迎で中抜けしたり、終業後の連絡に対応したりすると、申告された時刻だけでは実態が分からないことがあります。
一方、PCが起動していた時間をすべて労働時間にするのも適切ではありません。重要なのは、始業・終業の記録を基本に、客観的な記録とのずれを確認し、実際に会社の指揮命令下で働いた時間へ補正できる運用です。
この記事の結論 テレワークでも、会社には労働時間を適切に把握する必要があります。勤怠打刻や自己申告を入口にし、PCの使用記録、メール・チャットの時刻、成果物などと大きな差があれば確認して修正します。中抜け、時間外連絡、残業申請の扱いは、就業規則と勤怠システムの両方へ具体的に反映します。
テレワークでも労働時間の把握は必要
テレワークであっても、労働基準法などの労働関係法令は適用されます。オフィスに出勤していないことを理由に、始業・終業の確認や時間外労働の集計を省略することはできません。
労働時間とは、従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間です。パソコンを開いているか、チャットがオンライン表示になっているかだけで決まるものではありません。
たとえば、パソコンを起動したまま家事をしていた時間は、自由に利用できていれば直ちに労働時間になるとは限りません。反対に、退勤打刻後でも、上司の指示で資料を修正していれば労働時間になり得ます。
労働時間の基本的な判断方法は、「労働時間とは?準備・着替え・待機時間を9ケースで解説」でも詳しく説明しています。
始業・終業は「申告・客観記録・確認」の3段階で把握する
テレワークの勤怠管理では、一つの記録だけで完結させず、次の3段階で確認します。
テレワークの労働時間把握
- 1本人が記録勤怠打刻やメールで始業・終業を記録
- 2客観記録と照合PC、メール、チャットなどの時刻を補助資料にする
- 3差を確認・修正大きなずれの理由を確認し、実態へ補正
運用の要点ログで一律に決めず、申告との差を放置しない仕組みにします
1. 勤怠打刻や自己申告で始業・終業を記録する
まず、従業員が始業時と終業時に勤怠システムへ打刻します。システムを利用できない場合は、メールやチャットで上司へ時刻を報告する方法も考えられます。
「朝会に参加したから始業」「最後のメール送信が終業」のように周辺記録だけで推測せず、本人が始業・終業を明示的に記録する運用を基本にします。
自己申告制を採用する場合でも、残業時間を一定の時間までしか入力できないよう制限したり、「申請していない残業は記録しない」と案内したりしてはいけません。実際の労働時間を正しく申告できる入力欄と修正手順が必要です。
2. PCログなどは客観的な補助記録として使う
厚生労働省のガイドラインでは、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録を基礎に確認する方法が示されています。テレワークで照合に使いやすい記録には、次のものがあります。
労働時間の確認に使う記録
記録ごとの限界を理解し、一つだけで労働時間を自動確定しないことが大切です。
| 記録 | 確認できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 勤怠打刻 | 本人が申告した始業・終業 | 打刻前後の作業や打刻忘れを確認する |
| PCログ | 起動、終了、ログインなどの時刻 | 起動中の全時間が労働時間とは限らない |
| メール・チャット | 送受信や投稿があった時刻 | 閲覧しただけか、対応を指示されたかを確認する |
| VPN・業務システム | 社内環境へ接続した時刻 | 接続を維持したまま離席する場合がある |
| 成果物・更新履歴 | 作業が行われた形跡 | 作成に要した時間までは確定できない |
PCログは監視のためではなく、勤怠申告とのずれを発見する補助資料として位置づけると運用しやすくなります。取得する記録、利用目的、閲覧できる担当者、保存期間は従業員へ説明します。
3. 大きなずれは理由を確認して修正する
終業打刻が18時なのに、20時台に業務メールを何度も送信している。始業打刻は9時なのに、毎日7時台から業務システムへアクセスしている。このようなずれがあれば、会社は理由を確認し、必要に応じて労働時間を修正します。
ずれの原因が、PCの消し忘れや私用の閲覧であれば、その事実を記録します。上司からの指示による作業や、処理しきれない業務量による残業であれば、本人に修正申請をさせ、承認して賃金計算へ反映します。
差異確認を毎月の締め日にまとめて行うと、本人も状況を思い出せないことがあります。一定時間以上の差が出た日にアラートを出し、翌営業日までに確認できる仕組みが有効です。
中抜け時間は3つの方法から運用を決める
テレワークでは、育児・介護、通院、家事などのため、所定労働時間の途中で仕事から離れることがあります。従業員が自由に利用でき、会社の指示へすぐ対応する義務もない時間は、中抜け時間として扱うことが考えられます。
厚生労働省のガイドラインでは、中抜け時間について、主に次の運用が示されています。
- 中抜けの開始・終了を記録し、休憩時間として扱う
- 従業員の希望により、時間単位年休として扱う
- 中抜けを把握せず、始業から終業までの時間から所定休憩を除いた時間を労働時間として扱う
中抜け時間の3つの処理方法
どの方法を採用するかを就業規則などへ定め、勤怠画面の入力方法と一致させます。
| 方法 | 勤怠処理 | 運用上の注意 |
|---|---|---|
| 休憩として把握 | 中抜け開始・終了を記録し、終業時刻を繰り下げることも可能 | 自由利用が保障され、業務対応を求めない時間にする |
| 時間単位年休 | 本人の希望により年休残数から控除 | 時間単位年休の労使協定と年5日以内の上限が必要 |
| 中抜けを把握しない | 始業から終業までから所定休憩だけを控除 | 中抜け分も労働時間として取り扱うことになる |
「30分離席したから自動的に無給」「カメラに映っていなかったから休憩」とはできません。休憩として扱うなら、その間は電話やチャットに反応する義務を課さず、従業員が自由に使える状態にします。
時間単位年休を使う場合の労使協定、取得上限、残数管理は、「時間単位年休と半日有休の違い」で確認できます。
終業後のメールやチャットは内容と指示を確認する
終業後に業務連絡が届いたからといって、通知を受け取った後の全時間が直ちに労働時間になるわけではありません。本人が翌日に確認でき、対応もしていなければ、通常はその連絡だけで労働時間が続いているとは考えにくいでしょう。
一方、上司が「今夜中に直してほしい」と指示し、従業員が資料を修正した場合、その作業時間は労働時間になり得ます。「急ぎ」と明記していなくても、すぐ返答することが慣行になっていたり、返信しないと評価が下がったりする職場では、黙示の指示があったと判断される可能性があります。
時間外の連絡があったときは、少なくとも次の点を確認します。
- 会社や上司が、すぐに返信・作業するよう指示したか
- 従業員が実際に返信、資料作成、システム操作をしたか
- 対応しなければならない業務量や期限が設定されていたか
- 対応に要した時間を本人が申告できる状態だったか
- 深夜・休日労働の許可と割増賃金の計算へ反映されているか
残業の事前承認がなくても一律に切り捨てない
残業の事前承認制は、長時間労働を防ぎ、上司が業務量を調整するために有効です。しかし、承認を得なかったことだけを理由に、実際に行われた労働を記録から除外することはできません。
無許可の時間外作業が見つかったら、まず実態を確認して勤怠を修正します。そのうえで、従業員へ手続きを指導し、上司側にも過大な業務量や短すぎる期限がなかったかを確認します。
システムには「未承認なら0時間」とする機能ではなく、事前申請がない実績を例外として表示し、事後報告と上司確認へ回す機能が必要です。勤怠の端数処理と実労働時間の修正方法もあわせて確認してください。
在宅勤務と出社の間の移動時間
午前中は自宅でテレワークを行い、午後から会社へ出社する勤務では、移動時間の扱いも決めておきます。
従業員が自らの都合で勤務場所を移し、その移動時間を自由に利用できる場合は、休憩時間として扱えることがあります。一方、会社が業務上必要な出社を命じ、移動中の自由利用が保障されていない場合は、労働時間に当たる可能性があります。
「自宅から会社への移動は通勤だから一律に労働時間ではない」と決めず、誰が移動を決めたか、業務上必要だったか、移動中に自由に過ごせたかを確認します。
事業場外みなし労働時間制は自動的に使えない
テレワークは会社の外で働くため、すべて事業場外みなし労働時間制にできると思われることがあります。しかし、テレワークであることだけでは適用できません。
事業場外みなし労働時間制を適用するには、労働時間を算定し難いことが前提です。厚生労働省のガイドラインでは、情報通信機器を常時通信可能な状態にするよう指示されていないこと、随時具体的な指示に基づいて業務をしていないことなどが示されています。
勤怠システム、チャット、PCログなどから労働時間を把握でき、上司が随時指示を出している働き方であれば、「自宅勤務だから所定時間働いたものとみなす」という処理は慎重に検討する必要があります。
長時間労働を防ぐ4つの仕組み
テレワークは通勤がなく柔軟に働ける反面、仕事と生活の境界が曖昧になりやすい働き方です。記録を正すだけでなく、時間外に働かせない仕組みも必要です。
1. 時間外の連絡ルールを決める
管理職を含め、深夜・休日には原則として業務メールやチャットを送らないルールを設けます。送信予約を使い、緊急連絡は対象業務、連絡手段、対応者を限定します。
2. システムへのアクセスを制限する
所定時刻後は業務システムへアクセスできない設定や、一定時刻に警告を表示する設定を検討します。ただし、アクセス制限を越えて実際に働いた時間を記録から消す仕組みにしてはいけません。
3. 勤怠の差異・長時間アラートを出す
終業打刻後のPC操作、連続勤務、深夜・休日のアクセス、36協定の上限接近を管理者へ通知します。時間外労働の上限管理は、「36協定とは?残業上限と届出の基本」で解説しています。
4. 業務量と期限を見直す
残業申請を減らすよう伝えるだけでは、持ち帰り残業や未申告につながります。勤務時間内に終わらない業務量、夜間対応を前提とした顧客対応、短すぎる納期を見直します。
勤怠システムで確認したい10項目
テレワーク制度を導入するときは、就業規則を作るだけでなく、テスト用の従業員で始業から給与連携まで確認します。
- 自宅、サテライトオフィス、出社など勤務場所を記録できるか
- 始業・終業を本人が明示的に打刻または申告できるか
- 打刻忘れや終業後の操作を検知し、本人へ確認できるか
- PCログなどとの大きな差を例外として表示できるか
- 中抜けの開始・終了と理由を必要な範囲で記録できるか
- 中抜けを休憩、時間単位年休、労働時間のいずれかへ正しく反映できるか
- 事前申請がない残業も、事後確認を経て実績へ追加できるか
- 深夜・休日労働と割増賃金を正しく計算できるか
- 在宅勤務と出社の間の移動時間を個別に登録できるか
- 修正前後の時刻、理由、申請者、承認者を履歴として残せるか
実務チェック 「打刻より前後30分は自動的に切り捨てる」「残業申請がなければ所定終業時刻で確定する」「PCログがあればすべて残業にする」といった一律処理は避けます。差異を発見し、本人と上司が理由を確認して、実態に合わせて直せる設定にします。
テレワーク規程に定めたい項目
中抜けや時間外連絡を現場判断に任せると、部署ごとに取扱いが変わります。就業規則本則またはテレワーク勤務規程には、少なくとも次の項目を定めます。
- 対象者と申請・承認の手続き
- 自宅、サテライトオフィスなど勤務場所の範囲
- 始業・終業、休憩、中抜けの記録方法
- 中抜け後に終業時刻を繰り下げる場合の手続き
- 時間外・休日・深夜労働の申請と事後報告
- 業務時間外の連絡、緊急対応、連絡可能な時間帯
- PCログなど客観記録とのずれを確認・修正する方法
- 情報通信機器、通信費、作業環境、情報セキュリティの取扱い
規程には「会社の許可なく残業してはならない」と書くだけでなく、実際に残業した場合の事後報告先と勤怠修正の期限まで定めます。管理者向けには、時間外の連絡を控えること、申告を抑制しないこと、差異アラートを放置しないことを別途教育します。
まとめ:見えない時間を一律処理せず、差を確認できる運用にする
テレワークの労働時間管理で押さえたいポイントは、次のとおりです。
- テレワークでも始業・終業と時間外労働の把握が必要
- 勤怠打刻や自己申告を基本に、PCログなどを補助記録として照合する
- 申告と客観記録に大きな差があれば、理由を確認して修正する
- 中抜けは、休憩、時間単位年休、労働時間として扱う方法から運用を定める
- 終業後の連絡は、即時対応の指示と実際の作業内容を確認する
- 事前承認がないことだけを理由に、実労働時間を切り捨てない
- 連絡制限、アクセス制限、アラート、業務量の見直しで長時間労働を防ぐ
テレワークは、従業員を常時監視すれば管理できるものではありません。本人が正しく申告でき、会社が客観記録との差を確認し、必要な修正を残せる仕組みが重要です。
自社のテレワーク規程と勤怠設定が合っているか不安な場合は、就業規則、勤怠画面、PCログ、残業申請、給与計算を一つの流れとして点検すると、未申告残業や中抜け処理のずれを見つけやすくなります。